命題1-7
一つの線分を底辺として、三角形をなす二線分にそれぞれ等しく、同じ側に異なった点で交わり、最初の二線分と同じ端を持つ他の二線分を作ることはできない。
概要
一読しただけでは、意味も意義も分からない命題である。実はこの命題は、次の命題である「三角形の合同条件[三辺相等]」のための補題である。「三辺がそれぞれ等しい二つの三角形は合同」を示すために、今回の命題が利用されるのだ。
この命題の意味するところは次の通りだ。
「与えられた線分を底辺として、同じ側に、同じ長さの辺を持つ二つの三角形を、重ならないように描くことはできない」
これはもう、ほとんど「三辺相等」と同等のことを述べていることがわかるだろう。実際、次の命題の証明は、今回の命題を使うことで一瞬で終わる。
証明
証明は背理法で行う。線分ΑΒ上に点Γで交わる二線分ΓΑ、ΓΒが与えられ、それらとそれぞれ同じ長さで、点Γと同じ側にある点Δで交わる二線分ΔΑ、ΔΒが作られたとする。点Δが点Γと異なる場合、このようなものは作られえないことを示そう。
二点Γ、Δが結ばれたとする[公準1]。
三角形ΑΔΓに注目すると、辺ΑΓは辺ΑΔに等しいから、角ΑΓΔも角ΑΔΓに等しい[命題1-5]。また、角ΑΓΔは角ΒΓΔより大きいから[公準8]、角ΑΔΓも角ΒΓΔより大きい。さらに、角ΒΔΓは角ΑΔΓより大きいから[公準8]、角ΒΔΓも角ΒΓΔより大きい。ここで三角形ΒΓΔに注目すると、辺ΒΓは辺ΒΔに等しいから、角ΒΓΔは角ΒΔΓに等しい[命題1-5]。したがって、角ΒΔΓは角ΒΓΔより大きく、かつ、等しいことになってしまう。これは不可能である。
よって、一つの線分を底辺として、三角形をなす二線分にそれぞれ等しく、同じ側に異なった点で交わり、最初の二線分と同じ端を持つ他の二線分を作ることはできない。これが証明すべきことであった。
わかりにくいが、式で書くと次のような証明である。
1.三角形ΑΓΔは二等辺三角形なので、角ΑΓΔ=角ΑΔΓ
2.図より、角ΑΓΔ>角ΒΓΔ
3.図より、角ΒΔΓ>角ΑΔΓ
4.以上から、角ΒΔΓ>角ΑΔΓ=角ΑΓΔ>角ΒΓΔ
5.だが三角形ΒΓΔは二等辺三角形なので、角ΒΔΓ=角ΒΓΔであり、矛盾する。Q.E.D.
ギリシャ語解説
本文中で、角の比較を2回行った。その2回目の比較は角ΒΔΓと角ΒΓΔの比較であった。本Webサイトが参考にしている中村幸四郎『ユークリッド原論』の訳文では、この部分は「したがってなおさら角ΓΔΒは角ΔΓΒより大きい」と書かれている。
「なおさら」なんて、数学の文章ではなかなかお目にかからない面白い語彙である。原文は次の通りだ。
πολλῷ ἄρα ἡ ὑπὸ ΓΔΒ μείζων ἐστί τῆς ὑπὸ ΔΓΒ.
μείζων が形容詞 μέγας(大きい)の比較級である。「なおさら」と訳されているのは文頭の πολλῷ である。これは形容詞 πολύς(多い)の単数・中性・与格である。比較級と一緒に与格を使うと、比較対象との差がどのくらいであるかを表せる。したがって、"πολλῷ μείζων ~" は「~よりずっと大きい」の意味になる。中村氏はこれを「なおさら大きい」と訳したわけだ。
感想・独自研究
なんだかわかりにくい証明であるが、これは文章で書かれているからわかりにくいのであって、教師が図を指差しながら説明すればわかりやすいだろう。読者の方も、自分で図を指差しながら読んでみてほしい。何を述べているのか、たちどころにわかるだろう。
本Webサイトが参考にしている中村幸四郎『ユークリッド原論』の訳文では、この証明はもっとわかりにくい。というのは、私の書いた証明では「角ΑΓΔは角ΒΓΔより大きいから、角ΑΔΓも角ΒΓΔより大きい」とした部分が、元の訳文ではいきなり「角ΑΓΔも角ΑΔΓに等しい。それゆえ角ΑΔΓは角ΔΓΒより大きい」となっているからだ。ΑΓΔとΒΓΔの大小関係に言及することなく、一直線にΑΔΓとΒΓΔの大小関係に飛んでいる。なので最初に読んだときは、なにがどう「それゆえ」なのか全くわからなかった。なかなか不親切である。そしてこれに続く文章が「したがってなおさら角ΓΔΒは角ΔΓΒより大きい」である。こちらも、中継する角については一切言及していない。もちろんこれは訳が悪いのではなく、原文からこうなっているのである。