命題1-6
もし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう。
概要
ひとつ前の命題1-5では、二等辺三角形の底角が等しいことを示した。今回はその逆である。
今回の命題は二つの点で特徴がある。ひとつは、『原論』の中ではこの命題で初めて背理法が使われること。もうひとつは、この命題は第1巻のどの命題にも使われないことだ。初めて使われるのは、第2巻命題4になる。
証明
証明は背理法で行う。ΑΒがΑΓより大きいとして、矛盾を導こう。
大きい方ΑΒから小さい方ΑΓに等しい線分ΔΒが切り取られ[命題1-3]、ΔΓが結ばれたとする[公準1]。
ここで二つの三角形ΑΒΓとΔΓΒに注目する。
これらにおいて、辺ΑΓは辺ΔΒに等しく、辺ΒΓは共通であり、角ΑΓΒは角ΔΒΓに等しい。よって、底辺ΑΒは底辺ΔΓに等しく、三角形ΑΒΓは三角形ΔΓΒに等しい[命題1-4]。すると小さいものが大きいものに等しくなってしまう。これは不合理である[公理8]。したがってΑΒはΑΓに不等ではなく、等しい。
よってもし三角形の二角が互いに等しければ、等しい角に対する辺も互いに等しいであろう。これが証明すべきことであった。
感想・独自研究
証明の途中で、意味が取りにくいところがある。二つの三角形が合同だと示した直後、「小さいものが大きいものに等しくなってしまうので矛盾」と導くくだりだ。いったい何が「小さいもの」で、何が「大きいもの」かわかるだろうか? 元の文章ではここは主語が曖昧で、私は瞬時に意味が読み取れなかった。
おそらく三角形ΔΒΓが「小さいもの」、三角形ΑΓΒが「大きいもの」と読んでよいのだろう。より精確には、両者の面積が、である。命題1-4のページでも言及したが、『原論』で「図形が図形に等しい」と述べた場合、それは両者の面積が等しいことを意味する。したがってこの文章の直前にある「三角形ΑΒΓは三角形ΔΓΒに等しい」は両者の面積が等しいことを述べている。だが、図より、三角形ΔΓΒは△っ系ΑΒΓの部分であり、この両者が等しいことは公理8「全体は部分より大きい」に矛盾する。よって背理法の仮定が偽であったという証明である。
ところで証明の中で、「底辺ΑΒは底辺ΔΓに等しく」と書いた。が、この二辺は「底辺」と呼ばれているものの、一番下にはない。底辺というのは、必ずしも一番下にあるわけではなく、「すでに二辺が指定された場合の残りの一辺」を指すこともあるのだ。
冒頭にも述べたように、命題の証明そのものに背理法が使われるのは、この命題1-6が初めてである。ただし命題1-4でも、証明の途中で部分的に使用していた。