命題1-5
二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう。
概要
「二等辺三角形の底角は等しい」という定理である。現代の中学でも習う定理だが、証明方法はおそらく『原論』のものとは異なるだろう。
ちなみに上の命題の図には「ロバの橋」という名前がついている。『原論』を1から順に学ぶと、この手前の命題までは簡単なのに、ここで急に難しくなり、脱落する生徒が出てくるからだ。「ロバ(愚か者の意味)には渡れない橋」ということである。
実際、証明はやや難しい。というか煩雑だ。四つの三角形が登場し、その中に二組の合同な三角形ができることを利用する。
証明
辺ΑΒが辺ΑΓに等しい二等辺三角形ΑΒΓにおいて、線分ΒΔ、ΓΕがΑΒ、ΑΓと一直線をなして延長されたとする[公準2]。
まず補助線を引く。線分ΒΔ上に任意の点Ζが取られ、大きい線分ΑΕから小さい線分ΑΖに等しい線分ΑΗが切り取られ[命題1-3]、線分ΖΓ、ΗΒが結ばれたとせよ[公準1]。
ここで二つの三角形ΑΖΓ、ΑΒΗに注目する。
辺ΑΖは辺ΑΗに、辺ΑΓは辺ΑΒに等しく、これらは共通の角ΖΑΗをはさむ。したがって、この二つの三角形は合同である[命題1-4]。すなわち、底辺ΖΓは底辺ΗΒに等しく、角ΑΓΖは角ΑΒΗに等しく、角ΑΖΓは角ΑΗΒに等しい。
次に、二つの三角形ΒΖΓ、ΓΗΒに注目する。
先ほど示した通り、辺ΖΓは辺ΗΒに等しく、角ΑΖΓは角ΑΗΒに等しい。また、辺ΒΖも辺ΓΗに等しい。なぜなら、ΑΖがΑΗに等しく、ΑΒがΑΓに等しいので、等しいものから等しいものを引いた残りのΒΖもΓΗに等しい[公理3]。よって、二辺とその間の角が等しいので、二つの三角形ΒΖΓ、ΓΗΒも合同である[命題1-4]。ゆえに、角ΓΒΖは角ΒΓΗに等しい。そしてこれらは二等辺三角形の底辺の下にある。
さらに、角ΑΒΓは角ΑΓΒに等しい。なぜなら、すでに示したように、角ΑΒΗは角ΑΓΖに等しく、角ΓΒΖは角ΒΓΗに等しいので、前者から後者を除いた残りの角ΑΒΓは残りの角ΑΓΒに等しい。そしてこれらは底辺の上にある。
よって、二等辺三角形の底辺の上にある角は互いに等しく、等しい辺が延長されるとき、底辺の下の角は互いに等しいであろう。これが証明すべきことであった。
感想・独自研究
これが「ロバの橋」と呼ばれる証明である。妙に長いのだが、これは文章で書かれているからややこしいのであって、教師が図を指差しながら説明すればそこまで難しくないのではないか、という気もする。皆さんもぜひ、図を指でなぞりながら証明を読んでほしい。
ところでこの命題は現代日本の中学でも習うが、そこではこんな複雑な証明は行わなかったはずだ。調べてみると、こんな風に証明している。
二等辺三角形ΑΒΓの底辺ΒΓの中点をΔとし、ΑとΔを結ぶ。
二つの三角形ΑΒΔとΑΓΔに注目すると、ΑΒ=ΑΓ、ΒΔ=ΓΔ、ΑΔ=ΑΔなので、これらは三辺がそれぞれ等しい。よって合同である。ゆえに角ΑΒΔ=角ΑΓΔである。これが証明すべきことであった。
これだけである。しかもこれは、同じ補助線で角ΑΔΒが直角であることや、ΑΔが角Αの二等分線になっていることも示せる優れた方法である。
ただしこの証明には二つ問題がある。中点の作図方法と、三辺がそれぞれ等しければ合同という定理が、まだ示されていないことだ。そしてこのどちらの証明にも、『原論』では間接的に「二等辺三角形の底角は等しい」を使っている。つまりこの証明は、そのままでは循環論法に陥る。
中学の教科書では、この二点を次のように回避している。
まず中点の作図方法だが、これは菱形を作図することで成し遂げている。線分ΑΒの中点を作図したいときは、半径がΑΒで、中心がΑの円と中心がΒの円を描き、それらの交点Γ、Δを結べばよい。このとき線分ΓΔと線分ΑΒの交点が、ΑΒの中点となる。
これは、四角形ΑΔΒΓが菱形であり(このことは円の定義と菱形の定義から言える)、菱形が線対称な図形であるためだ。線対称な図形とは、対称の軸で折り曲げたときにぴったりと重なる図形のことだ。対象の軸(この場合はΓΔ)で折り曲げると線分ΑΕが線分ΕΒに重なるため、両者は等しく、したがって点ΕはΑΒの中点だと言える。
次に「三辺がそれぞれ等しければ合同」であるが、これは中学の教科書では、「三辺が与えられた三角形は一通りにしか作図できない」と示すことで成し遂げている。このことは、実験的に確かめてもよいが、次のようにある程度数学的に示すこともできる。与えられた三辺をΑΒ、Δ、Γとすると、一つの辺をΑΒとし、中心Α、半径Δの円と、中心Β、半径Γの円を描いてその交点をΕとすれば、三角形ΑΕΒが求める三角形となる。
「左右反転したものも描ける」「下側にも描ける」という点に目をつぶれば、たしかにこの一通りしか三角形は描けない。……厳密には証明になっていないのだが(例えば、円の交点が三つ以上にならないことを証明する必要がある)、まぁ納得するには十分だろう。
以上のように、中学の教科書では、線対称な図形の特徴と、「三辺が等しければ合同」という二つの性質を用いて、二等辺三角形の底角が等しいことを示す。また、菱形が線対称であることは小学校で習うことで、証明なしに受け入れることのようだ。
『原論』でこの証明を採用していない理由は明確だ。この二つの性質をまだ証明していないからである。そもそも「線対称」という概念自体、『原論』には登場しない。