命題1-2
与えられた点において与えられた線分に等しい線分を作ること
概要
我々が作図をするとき、コンパスを使って線分を移動させることがある。コンパスを線分の長さに開き、そのまま別の場所へコンパスを移すのだ。
しかし、『原論』ではそのような操作は許されていない。というより、『原論』は作図の道具について何一つ言及していない。ただ「許可された操作」と「可能な操作」を示しているだけだ。
「許可された操作」は公準の1,2,3の三つだけである。「可能な操作」は、公準から可能であることが証明された作図題の操作だけだ。そしてこれまでのところ、その中に「線分を移す操作」は含まれていない。
この命題1-2では、その「線分を移す操作」が可能であることを示す。ただ、ユークリッドの気持ち的には、「移す」ではなく「コピーする」であったかもしれない。
作図
- 点Αから点Βへ線分ΑΒが結ばれ[公準1]、その上に等辺三角形ΑΒΔが作られ[命題1-1]
- 線分ΑΕ、ΒΖが辺ΔΑ、ΔΒと一直線をなして延長され[公準2]
- 中心Β、半径ΒΓをもって円ΓΗΘが描かれ[公準3]
- 中心Δ、半径ΔΗをもって円ΗΚΛが描かれたとせよ。[公準3]
与えられた点をΑ、与えられた線分をΒΓとする。
このとき、線分ΑΛ(図中の赤線)が求める線分である。すなわち、線分ΒΓ=線分ΑΛである。
証明
以上で作図できていることを示す。
まず、点Βは円ΓΗΘの中心であるから、線分ΒΓは線分ΒΗに等しい[定義1-15]。
次いで、点Δは円ΗΚΛの中心であるから、線分ΔΛは線分ΔΗに等しい[定義1-15]。
ところで、線分ΔΑは線分ΔΒに等しいが、これらは線分ΔΛ、ΔΗの一部である。ゆえに、残りのΑΛは線分ΒΗに等しい。しかも、ΒΓもΒΗに等しい。よって同じものに等しいものは互いに等しいので、線分ΑΛは線分ΒΓに等しい[公理1]。
よって与えられた点Αにおいて与えられた線分ΒΓに等しい線分ΑΛが作られている。これが作図すべきものであった。
数式で書くと以下の通り。
ΒΓ=ΒΗ ―― 式1
ΔΑ=ΔΒ ―― 式2
ΔΛ=ΔΗ ―― 式3
ここで、ΔΛ=ΔΑ+ΑΛ かつ ΔΗ=ΔΒ+ΒΗ であるから、式2,3より、ΑΛ=ΒΗ ―― 式4
式1,4より、ΒΓ=ΑΛ Q.E.D.
感想・独自研究
なんとも不思議な命題である。現代の我々の感覚からすれば、図形なんて好きに動かして良さそうなものだが、『原論』ではそれが可能であることをきっちりと証明している。なお「移動」と言ったが、文章をよく読むと、「コピー」である。命題も「元の線分に等しい線分を作ること」であり、決して「移動すること」ではない。
どうやら『原論』が書かれた時代、数学者たちは、図形を移動させることに非常に慎重になっていたようだ。だがそれではあまりにも不便である。そこで『原論』では、2番目の命題として、線分を任意の場所へコピーできることを示した。これで大手を振って、図形を他の場所へ、事実上移動させることが可能になったわけである。